がくうそうでんせん

架空送電線の話

The Overhead Power Transmission Line
タワーラインソリューション
produced by
Tower Line Solution Co.,Ltd.

最近のトピックス

最近のトピックス(No.31~45)を下記に掲載する。

No.45 我が国初の女性送電線建設エンジニア誕生In Japan, all the people who acted in the power transmission line construction business were men conventionally.
However, "the power transmission line construction engineer" of the woman was born for the first time last year.
She works for the construction company of Okayama city and works well.
The people related to power transmission line construction wish she grows up.

このたび、男性でなければ勤まらない仕事との観念で人材採用および育成をしてきた送電線建設業界に初めて女性の 「送電線建設エンジニア」が誕生した。
岩井工業所(岡山市、柳智弘社長)では、平成23年春に大学新卒の女性が送電線建設部門のエンジニア募集に応募してきたが、その意志の強いひたむきな態度を見込み、固定観念を打破して送電線建設業界では初めて女性を採用した。
初採用されたのは大学で栄養学を学んでいた岡島綾子さんである。
岡島さんは架線工事に従事している電工の姿に魅せられて応募を決意されたとのことである。
入社試験に当たっては、さつそく鉄塔の昇降を課題として出されたが、生まれて初めて昇った鉄塔も恐怖感はなく、これならいける、ぜひやりたいとの気持ちを強くしたとのことである。

架空送電線工事では建設機械工具の開発・適用は進んでおり、工事現場の機械化は技術的にも安全性も世界一と言える高度な発展を遂げている。
しかし100%機械化をすることは困難で、高い鉄塔の昇降をはじめ、電線延緊線工事では電線への宙乗り作業など、体力を使う作業を皆無にはできない。
そこで新入社員には必ず電線宙乗り訓練などが課せられるが、岡島さんは一本の胴綱を頼りに電線に乗り出す恐怖感を味わい、また、毎日ひどい筋肉痛で自分の非力さを痛感したものの、現在ではそれを克服し、建設工事の現場管理業務に従事しているとのことである。
写真は塔上作業で活躍する岡島さん(左端)である。

送電線建設工事の管理業務は、理工科系を専攻した者でも、工事計画策定等のデスクワークから工事現場の作業管理・監督まで幅広い業務を処理するための多くの知識を要求されるので大変である。
特に事前知識の無い畑違いの部門に飛び込んだ岡島さんには誠にご苦労されることと思われるが、持ち前の強い意志と根気をもって頑張っていただきたいと心からエールをお送りする。

さて、当面勉強することは山ほどあると思われるがまずは送電線建設技術研究会発行の「架空送電線路工事従事者用教材」の5冊の教材を勉強され、同時に現場経験を積まれて、今後の目標は送電線建設技術研究会の現場代理人資格を取得されることを望んで止まない。

最後に、岡島さんには男性ばかりの職場に女性ならではのきめ細かさや気配りの新風を吹き込んで頂くことを期待すると共に、柳社長の固定観念を打破する業界初の英断に心から敬意を表し、更なる送電線建設業界の発展につながることを期待いたします。

No.44 世界最長の送電線記録、更新へThe power transmission line which is the longest in the world is Chinese Xiangjiaba -Shanghai line.
The length is 1,916.5km.
However, the Chinese electric power company is building the power transmission line of longer 2,059km between Sichuan - Jiangsu.
When this power transmission line is completed, a world record is updated.

経済発展が盛んな中国にあっては、水力も火力も発電適地は西部に偏在しており、東部の電力需要地に送電(西電東送)するため1,000km~2,000km以上の長距離DC(直流)UHV送電線建設プロジェクトを10以上計画している模様であるが、このうち右図に示した「UHVDC+/-800kV雲南-広東線」(2009年12月28日運転開始、こう長1,373km)および「UHVDC+/-800kV向家堤-上海線」(2010年7月8日運転開始、こう長1,916.5km)が既に完成している。

更に国家電網公司では、西電東送プロジェクトの一つとして「UHVDC+/-800kV錦屏-蘇南線」を現在建設中である。
この送電線は、線路こう長(送電線長さ)が2,090kmになる予定(2012.06.27公表2,059kmに確定)で、現在の世界最長記録である「向家堤-上海線」のこう長1,916.5kmを凌ぐ長さになり、この送電線が完成すると世界記録が更新されることになる。
「錦屏-蘇南線」は、起点を長江上流の金沙江の支流である雅礱江に建設中の錦屏水力発電所等の出力を直流化する交直変換所(標高4,488mの錦屏山から南東に約60km地点の西昌市裕隆)とし、終点は江蘇州南部の呉工市同里における交直変換所である。
そのルートは、四川・雲南・重慶・湖南・湖北・安徽・浙江・江蘇の8省市を経過し、ほぼ「向家堤-上海線」の北側に平行して設定されている模様である。
計画では、建設工事の完成を2012年としており、同年春以降に完成するものと予測される。
現在の建設工事工程の全般的詳細は不明であるが、9月28日付「人民日報」の海外版が伝えるところでは、安徽省内を通過する送電線こう長は383kmで、その内第4工区を担当する安徽送変電工程公司が請け負う工区では9月末で架線工事が最盛期で、この12月に竣工する予定との記事があった。

また、国家電網公司のホームページでは断片的ではあるが12月に入って各地の工区が続々と竣工している記事が掲載されている。
すなわち、12月21日付けで安徽省第2工区(99.42km、211基)が竣工したこと、12月27日付けで重慶第3工区(93.26km、175基)が竣工したこと、12月28日付けで浙江省第A工区(90.65km、199基)が竣工したこと等で、各工区それぞれ、他の充電中のUHV線路等と接近平行し鉄塔組立工事等で苦労したこととか、横断他工作物がが多く苦労したこと、峻険山岳地のため苦労したこと、ACSR900m㎡と太い電線であり延線工法に苦労したこと、等々の苦労話が掲載されている。

また、同公司のホームページによると12月21日現在で工事用材料供給は28工区の全ての工区に対して完了したとのことで、その鉄塔材料については、9月上旬に4,240基分の合計約28万トンを供給完了したとのことである。

2012.06.30 追記

2千kmを超える世界最長の送電線が運転開始

「UHVDC±800kV錦屏-蘇南線」試験運転開始、世界最長記録が更新された。
上記で述べたとおり昨年から工事に取りかかっていたUHVDC±800kV錦屏-蘇南線は、国家電網公司のホームページ(2012.06.28発表)によると、設備工事が竣工して、6月27日に試験運転が開始されたとのことである。
本送電線の定格は、電圧±800kV、送電容量720万kW(7.2GW)(送電電流4,500A)であるが、今回の試送電では電圧±400kV、送電容量36万kWだそうである。
7月上旬までに試験運転を完了させて、それ以降正規の運転規格で運転を予定している。
本送電線の完成により、雅礱江に建設中の錦屏水力発電所等の出力を浙江省、江蘇省方面に送電し、夏の電力需要に対応する予定であるとのこと。
本送電線のこう長は2,059kmとなり、従来送電線長さの世界記録であった「向家堤-上海線」のこう長1,916.5kmを凌ぐ長さになり、世界初の2千kmを超える長さとなって、世界記録が更新された。
なお、現在ブラジルではアマゾン川~サンパウロ間の約2,500kmを結ぶHVDC送電線を今年度中に完成目途で建設中であるが、それが完成するまで本送電線が世界記録を保持することとなろう。

No.43 カラス対策器Crows may make their nest on the steel tower of the power transmission line.
It may cause the power transmission line accident.
Therefore I devised the appliance which might prevent crows from making nest on steel towers.

架空送電線の歴史は100年以上になるが、支持物の上部、充電された電線付近にカラスが巣を作ることで毎年営巣季には停電事故の原因となることがあり、その対策に苦慮している現状が続いている。
電力会社としては、いろいろな対策器具の設置、あるいは営巣をさせない支持物構造の採用など、カラス営巣対策に努力しているが、未だに停電事故を皆無にするまでには至っていない。
したがって、電力会社では、送電線保守作業員が巣を見つけ次第、取り払い撤去する努力を続けている。

本サイト開設者は、自宅付近のゴミ収集場所にてカラスがゴミをあさり、道路上にゴミを散らかしている状況を軽減させようと、写真のような「カラス対策器」を試作し数年にわたって使用しているが、カラスを追い払う効果を確認している。 そこで、これを改良して送電線現場に適用すればカラス対策に効果を発揮するのではないかと思いここに公開・掲載した。
このサイトを訪問された方々で送電線保守業務に携わっておられる方がいらっしゃいましたら、安価で製作できますので、ぜひ試していただき、更に実用化されますことを期待しております。

はじめに

カラスを含む鳥類は、地磁気を敏感に関知する能力を持っており、その能力のお陰で自分の居る位置あるいは飛行方向を感知していると言われている。
したがって、地磁気が攪乱されることを特に嫌がる性質を持っており、彼らの行動を見ると、そのような場所には近づかないことが分かっている。
そこで、カラスが近づいては困る箇所に、地磁気を人為的に攪乱する装置を設置すれば、彼らはそこを避けて行動するので、例えば送電線鉄塔にそのような装置を設置することで、カラス対策に効果があると思われる。
地磁気を攪乱する方法であるが、細長い永久磁石を用いて、そのS極とN極の磁極の位置を交番変化させることで効果があると思われる。
そこで以下のような「カラス対策器」を試作し、実験し、効果が確認されたので、その概要を掲載する。

カラス対策器と効果

永久磁石を用いて、S極とN極の磁極の位置を交番変化させる方法であるが、最も簡単な方法は、2個の永久磁石を水平の非磁性体の棒などの両端に取り付けて、その棒の中心を軸にしてそれを回転させると、その付近の磁界が変化し地磁気を攪乱させることになる。
(冒頭の写真参照)
なお、試作器ではそれを手で回転させるために水平棒の中心に、T字型に縦に棒を取り付け、縦棒を手で回転させて磁石を水平回転させる。
すなわち、竹とんぼの様な形である。
棒の長さ、磁石の強度、2個の磁石の向き、および回転数等により効果が異なると思われるが、試作したものは下記の通りである。

試作器の仕様

  • 永久磁石
    市販の円筒形アルニコ磁石
    パワーマグネットバー、品番:AL-1030、(株)マグナ製、4本組
    東急ハンズにて 1,207円
    4個の製品のうち2個を直列にしたものを1組として使用。
    棒の両端に1組ずつ使用
  • 水平棒
    直径4mmのアルミ線、長さ600mm(園芸整形用アルミ線使用)
  • 縦棒
    直径8mmの園芸用鉄製グリーンポール、長さ900mm

この使用材料は、たまたま手元にあった物を使ったが、水平棒は非磁性体であればアルミパイプの他に、アクリルパイプ、ポリカボネイトパイプ、塩ビパイプなど軽くて工作に適した物は何でも使用できる。
また、縦棒は鉄製品を用いたが、非磁性体の軽量パイプの方が効果があると思われる。
更に、永久磁石についても、水平棒に取り付ける磁極の向きの組合せ、すなわち、SN-SNとするか、またはSN-NSとするかなどで効果が異なると思われる。
試作器は前者の組合せとした。
以上の、材料で試作したものを、毎秒2~3回の回転数で回転させた。

50Hzの送配電線磁界が鳥に与える影響が無いのと同様、あまり高速にすると効果がないようである。
その効果については、頭上で水平回転させると、10~20mの付近にいるカラスは、ほとんどすぐに逃げていくことが分かった。
すなわち、ゴミ収集箇所にカラスが常に飛来しゴミを食い荒らしているところで、20m程離れた位置で回転操作を始めると大半のカラスは逃げるが、逃げないカラスもいるものの、10m程まで近づくとほぼ全てのカラスは逃げていくことが分かった。

何十回と実験したが、若い元気なカラスほど逃げ足が速く、年老いたカラスは鈍感なようで、いつも逃げるのが遅く、中には逃げない個体もいることが分かった。
これらの操作は、カラスから見えないようにして実験したので、人が近づいたため逃げたものではなく、地磁気攪乱のためと確信している。 

実用化の問題点

試作器は以上の通りであるが、これを実用化するには、課題が山積していると思われる。

  • 磁石の仕様
    まず、最適な磁極の強さはどの程度か。
    SN-SNの組合せで試作したが、水平棒を磁性体としS---Nとする方法も考えられる。また、最適な磁石の水平間隔を見つける必要がある。
  • 回転力
    メンテナンスフリーで耐久性のある装置にするには、回転力の発生装置を如何にするかが問題である。
    回転力源は電気を使用する方法もあるが、経済的でメンテナンスフリーで耐久性のある装置とするには、風圧を回転源とするのが最適と思われる。
    その場合、風速の強弱によって回転数が変化してしまうので、風速に拘わらず一定回転数を保つような工夫が必要である。
    すなわち、水平棒の両端に、2杯風速計よろしく風を受けると回転する半球型の装置を取り付ける。
    この半球型の装置を、回転数に応じて見かけ上受風面積が変化するよう、上下又は左右に開閉可能な構造とすることなどが考えられる。
    または、発電機のガバナーと同様な定速回転機構を縦棒に取り付けることも考えられる。
    いずれにしても、微風で回転を始め、常に毎秒2~3回転を保つ装置が必要である。
    多少費用がかかるが、太陽光発電パネルとモーターを設置してカラスが活動する昼間のみ回転させる方法も考えられる。
    なお、回転装置をセットした場合には回転機構を備えた機械となるため、その装置の名称は「カラス対策機」となろう。

おわりに

カラス対策については、送電線建設以来の長年の懸案事項であるが、益鳥であるカラスを傷つけず、追い払うだけの効果に限定した効果的装置が出現していない。
しかし、本装置は、追い払うだけの効果に限定した装置であり、カラスを虐待するものではないので、良いと思われる。
ただ、カラスによっては、地磁気攪乱装置に順応して、時間と共に効果が低減することも考えられるので、長期の実験が必要と思われる。

なお、上記の対策器を作るのがめんどくさいと言う方には、2mほどの長さの紐と永久磁石1個を用意していただきたい。
紐の先端に磁石をくくりつけて投げ縄宜しく頭上で回転させることで、最も簡単に地磁気の攪乱状態を作ることが出来る。(磁石が紐から外れて飛んでいかないよう、くれぐれも注意されたい)
そこで、カラスが止まっている樹木の下などカラスの近くに行き、磁石を回転させると、磁石でないものを回転させても逃げないカラスが、磁石の回転では驚いて飛び立つのが体験できるので、まずは試していただきたい。

とにかく、詳細な理論構築は後にして、試作器と同様の極めて簡易な装置を作成していただき、本装置がカラス対策に効果を発揮することを、一人でも多くの方々に体験していただきたいと切にお願いするものであります。

No.42 アメリカの「主柱材無し・特殊骨組み鉄塔」の解析In U.S.A., power transmission line steel towers of the special construction without main pillar materials are in some districts.
It is built to the east of the Mississippi of Illinois.
On the steel tower similar to this steel tower, we performed three-dimensional trass analysis.
According to the analysis result, we understood that the weight would become heavy approximately 20% in the steel towers more special than normal steel towers.

設備概要

昨年、2010年5月にアメリカ旅行をした際、極めて特殊な骨組み(結構)の鉄塔を見ることができた。
イリノイ州・ミシシッピー川の東で見られためずらしい送電線である。
下の写真のように、下アームから上部には本来無ければならないはずの鉄塔主柱材がない腹材だけの結構の鉄塔で、誠にめずらしい形状の鉄塔である。

電圧は69kVで、がいし一連個数6個である。
送電線は、図に示すように、田舎町Galvaとそこから約100km離れた田舎町Lomaxの間のほとんど住民が居ない見渡す限りの広大な耕作・平原地帯に建設されていた。

こう長約100kmのこの送電線は、ほとんどの区間で写真のように2回線装柱の鉄塔に1回線が架線された、1回線送電線であった。
ただ、ごく一部には次の写真のように2回線架線された区間もあった。

鉄塔構造は、下アームから下部は通常のダブルワーレン構造だが、上部は本来無ければならないはずの鉄塔主柱材がない腹材だけの結構の鉄塔で、誠にめずらしい形状の鉄塔である。
部分的には、中アームの電線を下アームに架線し中アームを設置していない鉄塔も見られた。
最下部パネルの変形ブライヒ結構構造から推測すると、建設年代は古く1910~1930年代(我が国の大正~昭和初期年代)に建設されたものと思われる。

特殊結構の目的

さて、どうしてこのような特殊結構を採用したのだろうか。
アメリカでは、何事にもチャレンジ精神が豊富で、あえて特殊な構造に挑んでみようとするエンジニアの思いを実現させたように思われる。
具体的には、鋼材が高価な時代にあって、腹材を少し太い部材にする(強度を高める)ことで、主柱材を省き、使用部材数を極力少なくすることが目的だったように思われる。
この送電線が建設された当時の鉄塔資材代は、鉄塔総質量とともに使用部材の数量をも加味して価格算定されていたのではないかと思われ、このため極力使用部材数を少なくすることを目的としてこのような設計を採用したように思われる。
(現在では、通常鉄塔部材数の多少は鉄塔資材代の価格算定に反映されていない)
しかし、さすがに下アームから下部については、対応困難で通常の結構にせざるを得なかったと思われる。

解析

世界でもここだけでしか見られない特殊な結構の鉄塔について、ぜひ解析をして、主柱材のある通常の結構との違いを知りたいと思いその仕事を引き受けてもらえる方を探した。
その結果、我が国の送電鉄塔設計技術の第一人者である本郷栄次郎工学博士が、誠に多忙ななか快く解析を引き受けていただけることになった。
解析に当たっては、特殊鉄塔の詳細が写真情報だけで部材寸法、結構寸法、電線線種、張力条件など不明なため、我が国の66kV2回線ACSR160m㎡標準鉄塔を元にして主柱材を省いた設計を考え解析することとした。
解析は、立体トラス解析とし「STAN3D」解析ソフトを用い、腹材サイズを大きくしつつ強度不足が解消するサイズまで次第に腹材サイズを変更して標準鉄塔と同じ耐力になるようカットアンドトライで何回も解析を行った。
解析結果は、詳細は省くが、特殊結構部分について主柱材がある鉄塔と同一の強度とするには鉄塔質量で約20%増加させなければならないとの結論が出た。
従って、主柱材のある標準鉄塔がやはり合理的設計であることが実証確認できた。
本郷博士には、誠にお忙しいなか多くの時間をかけてこの解析作業に当たっていただきましたことに深く感謝申し上げる次第です。

本サイト開設者は、15年以上に亘り世界各地の送電線鉄塔を見てきたが、主柱材のない鉄塔に遭遇したのは初めてであり大変驚いた。
しかし、当然のことながら、現在世界中で広く使用されている主柱材のある標準的結構が最も合理的であることが裏付けられ、我々の選択している道が正しいことを改めて確信した次第である。

No.41 500kV送電線保守用ロボット、「第4回ロボット大賞」で受賞In 2010, the robot for the electric wire check of the 500kV power transmission line was developed.
This robot has the ability that can check power transmission lines in a live wire.
This robot was developed by Kansai Electric Power Co., Ltd. and other 3 companies and Tokyo Institute of Technology.
This robot was recognized as excellence by the fourth robot contest of Ministry of Economy, Trade and Industry and got an excellent prize.

昨年、2010年11月のニュースで旧聞に属するニュースであるが、ご存じない方もあると思われるので掲載する。
経済産業省は、ロボット産業を、世界をリードする新産業に成長させようと、ロボットの実用化に必要な技術開発や安全性の確保の取り組みを進めているが、開発・実用化されたロボットのなかから優秀なロボットを表彰することとして、2006年以降、経済産業省、(社)日本機械工業連合会が主催する「ロボット大賞」を創設してロボット技術の向上等に努めている。
2010年度は「第4回ロボット大賞」が実施され、92件が応募したなかから12件が優秀賞に選ばれ、更にその中から「第4回ロボット大賞(経済産業大臣賞)」、「最優秀中小・ベンチャー企業賞(中小企業長官賞)」、「日本機械工業連合会会長賞」、「中小企業基盤整備機構理事長賞」及び「日本科学未来館館長賞」が選出(2010年11月25日)された。
なお、応募部門は、「 サービスロボット部門」、「産業用ロボット部門」、「 公共・フロンティア部門」及び「部品・ソフトウェア部門」がある。

さて、関西電力(株)、(株)かんでんエンジニアリング、(株)ジェイ・パワーシステムズ、東京工業大学及び(株)ハイボットが開発した「超高圧送電線活線点検ロボット Expliner(エクスプライナー)」は、「公共・フロンティア部門」に応募したがその中で最優秀に選出され「中小企業基盤整備機構理事長賞」を受賞した。
このロボットは、500kV 4導体送電線の電線保守点検に当たり、電線上を宙乗器と同様に走行可能な構造で、電線上を遠隔操作で自動移動し活線で点検を行えるロボットであり、単導体、2導体にも適用でき、電線直径は24~60mmをカバーしている。

写真は、2011年6月15~17日に東京ビッグサイトで行われた「スマートグリッド展2011」に出展された「エクスプライナー」である。

このロボットの操作は、活線状態で、

  • 耐張がいし装置の鉄塔で、ロボットを塔上に引き上げ、長さ約10mの絶縁棒とケプラーロープを用いて電線上にセットさせる
  • 4導体上を半自動走行させてスペーサを乗り越えつつ電線径の測定、写真撮影等の点検を行わせる(電線登坂能力30度)
  • 懸垂鉄塔では懸垂クランプ部分で自動的に回避動作を行わせ次の径間に移動させる
  • 耐張がいし装置の鉄塔で、長さ約10mの絶縁棒を用いて回収する

と言う手順で行う。

下記のURLに構造及び詳細な作業手順等が掲載されている。
http://www.robotaward.jp/archive/2010/prize/robot04.pdf

従来、電線詳細点検は送電停止をとって作業員が宙乗りをして行っていたが、このロボットを活用すれば活線で点検できるので、特に停止困難な送電線ではメリットが多いと思われる。
なお、このロボットは質量が80kg、大きさは長さ1.5m、幅0.6m、高さ1.5mで大型であるが、山岳地で人肩運搬が可能なように分解・組立が容易に出来る構造だそうである。

No.40 アメリカ大陸・東西連系スーパーステーション建設へThere are three power grids in the USA — the Eastern Interconnection, the Western Interconnection and the Electric Reliability Council of Texas.
Tres Amigas, LLC will unite the nation's electric grid.
Tres Amigas is focused on providing the first common interconnection of America's three power grids to help the country achieve its renewable energy goals and facilitate the smooth, reliable and efficient transfer of electric power from region to region.
The name of the facilities is called "Tres Amigas SuperStation".
Construction on the station will begin in 2012 and should be completed by 2014.

日本では、東日本が50Hz、西日本が60Hzと東西で周波数が異なるために東西電力融通量が周波数変換設備容量で制限され、現在最大で約100万kW(1GW) までしか融通ができない。
このため、東西の電力会社間ではそれがネックとなり十分な東西電力融通が行えない状況であるためその増強が期待されている。

一方、アメリカでは周波数はすべて60Hzで周波数問題はないが、あまりにも国土面積が広く、東西の距離は約5,000kmもあるため単一の電力系統での運用ができない。
それでは、電力系統の運用形態はどうなっているであろうか。

アメリカでは電力会社は地方公営会社が多く国全体の2/3を占め、その数は2,000社を越え、私営および協同組合営などを含め国全体では2006年現在で3,268社に上っている。
系統運用はこれら多くの会社を地域別に束ね、右図に示すように例えばニューヨークはNPCC(Northeast Power Coordinating Council)、ハリウッドとマイアミなどはFRCC(Florida Reliability Coordinating Council )に組み込まれて、国全体で大きく10ブロックにまとめられて運用している。
なお、西部のWECC(Western Electricity Coordinating Council)では図示していないが、その中には3つのブロックが存在する。

図に示すように、更にこれらのブロックを束ねて、アメリカ大陸を大きく東西に2分し周波数を適正に維持管理する系統運用を行っている。
ただ、テキサス州ではこれに加盟せず独立の系統で運用しており、実態は東部相互接続系統(Eastern Interconnection)、西部相互接続系統(Western Interconnection)およびテキサス相互接続系統(Electric Reliability Council of Texas)の3つの系統に分割して運用しており、それら系統間は周波数非同期である。
なお、隣接するカナダ南部はアメリカの系統と連系し一体となって運用している。

現在は、8箇所ほどで東西系統間を連系する連系ステーション(電力変換所)が運転されているが、1箇所当たりの連系容量は200万kW(2GW)程度であり、全米の最大電力の約9億2千万kW(920GW)(2007年現在)に比べその容量は小さく、大容量の連系設備の建設が望まれていた。
すなわち、テキサス州では再生可能エネルギーの風力発電が過剰気味だが、一方でカリフォルニア州では常に電力不足ぎみであるなど、地域によって電力の過不足がある。
また、アメリカ大陸は東西に約5,000kmの距離があるため、西海岸のパシフィック・タイムゾーンと東海岸のイースタン・ タイムゾーンでは3時間の時間差があり、一日の内の最大電力が発生する時間帯が3時間ずれて発生する。
したがって、3つの相互接続系統が電力変換所で連系されれば、再生可能エネルギーの更なる活用を含め、お互いに一層効率的な電力運用が可能である。

その他、お互いに所有する電力貯蔵設備(揚水発電所、回転機、空気圧縮機、蓄電池など)の有効活用が更に進められるとともに、新規の発電所建設を回避する効果が大きい。
そこで、上図に示すように3つの 相互接続系統に接するニューメキシコ州の東端にある都市クロービス(Clovis)に 大容量連系ステーション(電力変換所)を建設する計画が持ち上がった。 この計画は民間会社トレス・アミーガス社(Tres Amigas Limited Liability Company)が進めるもので、トレス・アミーガス・スーパーステーションの名称で、有名な建設会社のCH2M Hill社が建設管理の契約を獲得し、2012年に着工して2014年に完成させる計画である。

その概要は、右図に示すように3つのAC系統をそれぞれ交直変換器に引き入れてHVDCに変換し、超電導地下ケーブルを通じて再び交直変換器を通してACに変換して別のAC系統に引き出す、いわゆる背中合わせのシステム('back-to-back' systems )である。
その中には、電力貯蔵(蓄電)施設の設置も含まれている。

電力変換規模は、当初 500万kW(5GW) であるが、最終的には 3,000万kW(30GW) を計画している。
また、その敷地規模は58平方キロメートル(山手線の囲む面積の約60%に相当)の広大な敷地で、 昨年12月にトレス・アミーガス社と州の国有地管理局が、賃借契約にサインしたとのことである。

その建設費は6億ドル(約480億円)を予定している。
トレス・アミーガス社は、電力会社と政府のバックアップを受けているが、民間企業であり、その建設費用の回収は電力の売買により年間40億ドル(約3200億円)の売り上げを目指しているとのことである。

なお、超電導DCケーブルは、American Superconductor 社が供給するそうで、既に韓国に発注されて製造に入っているそうだ。
また、Xtreme Power社は、エネルギー蓄電設備を供給するが、同社のDynamic Power Resource (DPR)エネルギー管理システムが、3つの相互接続系統に対して電力の過不足を解消する大きな役割を果たすそうである。

以上、トレス・アミーガス・スーパーステーションは電力流通設備の効率的運用に関して、昨今話題のスマートグリッドと同様にその成果が世界的に注目されている大型プロジェクトであり、その順調な建設が期待されている。

No.39 東北地方太平洋沖地震による架空送電設備被害の概要について

この度の、東北地方太平洋沖地震により、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様、そのご家族の方々に対しまして、心よりお見舞い申し上げます。

さて、この度の東北地方太平洋沖地震では地震そのものと地震に伴う大津波により東北地方から関東地方に甚大な被害が発生したが、架空送電設備に関しても東北電力管内の送電線設備に被害が発生した。
東北電力の公式ホームページによると、地中線を含む送電設備被害は102線路で、3月29日現在、仮復旧または本復旧完了したものは73線路とのことである。
また、他に軽微な被害は178線路あるとのことである。
その架空送電線被害の内訳は、鉄塔及び鉄柱等東北電力管内には総基数約5万8千基の支持物があるが、鉄塔損壊・折損・傾斜は42基であり、電線断線・がいし折損22ヵ所とのことである。
なお、 それらの電圧階級別および地域別内訳と設備被害を引き起こした原因(例えば地震による鉄塔敷地の崩落、津波等)については不明である。

一方、東京電力については公式ホームページによると、変電所の停止情報は掲載されているが送電線設備については掲載されていない。
すなわち、地震により栃木県にある500kV新茂木変電所、および275kV以下の茨城県内6箇所ならびに栃木県内の2箇所の変電所の合計9変電所がが一時停止したが、順次復旧し3月15日には全て復旧したとのことである。
送電線設備については、公式ホームページでは不明だが当サイト開設者が入手した情報では、福島県内で66kV送電鉄塔が地滑りのため1基倒壊したが、その他には大きな被害は発生していない模様である。

No.38 運転歴約100年を記録した送電設備(33kV吉白線鉄柱)There was the oldest steel tower power transmission line while driving now in Yamagata.
It was "33kV Yoshishiro Line" built in 1911.
The steel tower used in this power transmission line became the facilities which passed in about 100 years by this year.
The facilities were removed recently, but the news is splendid.

山形県寒河江市の東北電力白岩発電所(明治33年竣工)と西村山郡西川町の同電力吉川発電所(大正8年竣工)を結ぶ、こう長6.5Kmの33kV吉白線には、1911年(明治44年)に建設された当時の鉄柱が用いられており、ごく最近まで運転されていて稼働実績は約100年となる長寿の設備であった。

しかし、残念ながらごく最近、今年100年を迎える直前に撤去されてしまった。
この吉白線では、支持物基数約60基中約40基に当初建設された鉄柱が使用されていて、我が国では最も長寿の設備だったと言える。
(2011.01.22 追記)

写真はその懸垂鉄柱である。

送電線支持物に長期的寿命を持つ鋼材が使用されたのは吉白線が初めてではなく、それ以前に1907年(明治40年)には55kV駒橋線、1909年(明治42年)には46kV塔之沢線などが建設されているが、それらの送電線は、電力需要の増大に伴う設備改修・増強および系統変更等により当初設備は建替撤去されて現存していない。

ところが本送電線がごく最近まで現存できたのは、

  • 発電所間連系送電線で、現在の電源となる白岩発電所(当初150kW→昭和24年600kW運開)の最近の増強はなく、設備増強の必要が無かったこと、
  • 経過地が山形盆地の穀倉地帯の一画で、付近に鉄塔材に有害な汚染物質を発生する工場などが無く、塩害とも無縁で設備劣化要因が無く鉄柱の保存状態が良かったこと、
  • 市街化が進展する地域ではく当初ルートが保持できたこと、

などの理由と、更に東北電力による適切な保守管理により、良好な設備状態で長寿命が保てたためと思われる。

鉄柱はインチサイズで造られており、その製造元は不明である。
電線配列は、同時期の塔ノ沢線、鬼怒川線と同様に正三角形配列としている。
本鉄柱は、写真のように、腕金部分について昭和56年に冠雪および鳥害防止対策としてがいし装置を改修した時にパイプ腕金に改良され、本体のボルトナットも最新のものに交換されてはいるが、本体の鉄柱そのものは明治44年建設のものであり、外見上は発錆もなく極めてよく保守管理されていた。

さて、上記の両発電所は、最上川上流の寒河江川に建設されたものである。
白岩発電所が竣工した明治33年には、山形電気の前身の両羽電気紡績株式会社の時代で、150KWの電力を5.5KV送電線(現在の配電線規模)で約30Km離れた山形市内まで送電した。

その後10年ほど経過した明治44年には、電力需要の増加から白岩発電所の増容量(150kW→450kW)、およびその上流に吉川発電所を建設することとなり、吉川発電所の電力を下流の白岩発電所まで送電するための発電所間連系線として、明治44年に吉白線が建設されたのだが、吉川発電所は大正8年の竣工であって、明治44年から大正8年の9年間は、吉川発電所の建設工事用電力を、白岩発電所から逆送電していたのではないかと思われる。
吉川発電所が竣工した以降は、吉白線はその電力を白岩発電所に送電するための役割を受け持ち、白岩発電所で吉川発電所の発生電力を加え、山形市内方面に送電していたと思われる。
しかし、その後、白岩発電所から山形市内方面への当時の送電線が撤去された後は、白岩発電所の出力は33KV吉白線を通して吉川発電所で66KV系統に連系され、建設当時とは逆潮流になっていた。

ところで、海外に目を向けると、世界で初めて全線鉄塔を使用した送電線は、カナダで1905年(明治38年)に、ナイヤガラ水力発電所~トロント間、約120Kmに建設されており、この送電線は、三角配列2回線鉄塔で、2ルートが並走した。(写真)
このタイプの鉄塔は、同年の1905年、メキシコでNecaxa水力発電所~City of Mexico~El Oro間、約270Kmほどの60KV送電線でも使用された。(下記注参照)

この成功に刺激され、欧米で次々と鉄塔送電線が建設されていった。
特にこの時期に送電線建設を多く行ったのは、アメリカのカリフォルニア州およびミシガン州、さらににヨーロッパではドイツなどであり、その地域を中心に丹念に調べれば100年を経過して現在でも現役で運転している鉄塔送電設備が所々に存在するものと思われる。

しかし、我が国では、このタイプの鉄塔を参考にしたと思われる線路が、下記の通り建設されたが、全て撤去されて現存していない。

  • 1912年、名古屋電灯により、八百津発電所~荻野変電所間42Kmに60KV八百津線
  • 1913年、富士ガス紡績により、66KV東京幹線(後の酒匂川線、峰発電所~駒沢間、73Km)
  • 1913年、桂川電力により、77KV谷村線(鹿留発電所~目白間、95Km)
(注)2012.02.21 追記

Google earthを閲覧するとメキシコで、現在でも1905年に建設され100年以上を経た現役の鉄塔を確認することができる。
すなわち、下記の座標文字列をコピー(数値文字列のみコピー)してGoogle earthの検索窓に入力すると、画面がその座標場所に自動的に移動するので、そこでストリートビューを起動させると目的の鉄塔を見ることができる。
座標文字列:「20 00 00.08 N 98 15 33.07 W

No.37 関西電力が電線(ACSR)腐食劣化調査の新技術を開発Kansai Electric Power Co., Ltd. announced that the company developed two following new technologies as corrosion deterioration investigation technique of the electric wire (A.C.S.R) on November 26.
・"The repair time estimate technique of the electric wire by the environmental condition"
・"The electric wire deterioration detection system with X-rays"

関西電力は11月26日、電線(ACSR:鋼心アルミ撚り線)の腐食劣化調査手法として「環境条件による架空送電線の改修時期推定手法」の開発と、「X線による電線劣化検出システム」という新技術を開発したと発表した。
後者の新技術については世界で初めて開発したものである。
さて、ACSRは下の写真のように、その中心に亜鉛めっき鋼線を配置し、その外側にアルミ線を配置した構造になっている。
下の写真例はアルミ素線が耐熱性能を備えているTACSRと呼ばれているものの例であり、架空送電線で使用されている最も太い部類の電線写真例である。
一般にACSRは電線の太さにより、鋼線層は2相、アルミ層は2~4相、素線の太さ(直径)は鋼線およびアルミ線とも2.3mm~4.8mmが主に使用されている。

このACSRに使用されるアルミ線は腐食に対して強く、鋼線には堅牢な亜鉛めっきが施されていて、通常の使用環境では十分な腐食対策がなされている。
しかし、海岸付近で塩分粒子が飛来して電線に付着し、電線内部に浸透すると共に湿度が高いような所、あるいは亜鉛被膜もしくはアルミ材に対して有害な物質を多量に含んだ大気が吹き付けるような環境では、アルミ線および鋼線が腐食し電線の強度および許容電流値を低下させることがある。
電線内部でアルミ素線が腐食すると腐食生成物が発生し、電線が膨れて太くなるため現在は各電力会社とも目視点検で腐食の進行状況を把握しているが、外観点検では内部腐食の定量的な診断が難しい。
このため、高経年設備では電線を切り取り、サンプル調査をして内部腐食の定量的な診断をすることもあるが、その作業のためには長期停電時間の確保と多額の工事費用を要するため、調査箇所が限られるのが現状であろう。

そこで関西電力では設備に一切手を加えずに、ACSR内部のアルミ素線に発生した腐食状況を把握する手法として「X線による電線劣化検出システム」を世界で初めて開発した。
これは、電線にX線を照射した場合、腐食の進行具合によってその透過量の分布が異なることから、そのデータを解析して腐食の程度を検出するもので、このデータから、今後より設備実態に基づいた計画的な設備更新が可能となるとのことである。

一方、多くの地点で回収した撤去電線の状態と、その地点の環境条件(飛来する塩分量と湿度80%以上の状態が継続する時間)との関係を分析することで、電線の改修時期を推定する「環境条件による架空送電線の改修時期推定手法」も開発した。
この手法により、今後より一層効率的な設備の維持・更新が可能となるとのことである。

この2つの開発手法の詳細は関西電力プレスリリースページ(下記URL)に掲載されている。
http://www.kepco.co.jp/pressre/2010/1126-2j.html
(リンクしておりませんので、お手数ですが関西電力ホームページを訪問してご覧ください)

各電力会社では、昭和40~50年代の高度経済成長時代に建設された多くの設備が運用されているが、今後それらは次第に高経年設備としてきめ細かな維持及び計画的更新が必要となってくるため、その設備診断方法の確立が急務となっている。
したがって、関西電力のみならず各社とも独自に設備診断方法を研究していると思われ、さらに新しい効果的手法が誕生するものと思われる。

No.36 東京電力がベトナムで1100kVUHV送電線の実現可能性検討調査を実施Tokyo Electric Power Co., Ltd. announced that "the company decided to perform the feasibility study of 1100kV(UHV) power transmission lines in Vietnam by the spring of next year" on October 4.

東京電力は10月4日、ベトナムで1100kVUHV送電線の実現可能性検討調査を行うと発表した。
経済産業省が公募した平成22年度「低炭素型・環境対応インフラ/システム型ビジネスのコンソーシアム形成等支援事業(ベトナムにおける電力分野の基本設計書作成)」に同社が応札し、このほど採択を受け契約締結したとのことである。

近年、著しい経済発展を続けているベトナムでは、南部のホーチミン市を中心に見込まれる大幅な電力需要の増加を踏まえ、多数の電源設備の建設が計画されている。
しかしながら、ベトナム南部は遠浅の海岸地形なため大規模な港湾整備を伴う電源の立地地点が限られているので、大規模電源はホーチミン市から約300km東側の沿岸部に計画されており、このため長距離大容量の送電線建設が不可欠とされている。
このような状況を踏まえ、我が国が技術と運用経験を有する1100kVUHV送電システムや地中送電システムなど、地域特性やニーズに応じた、高効率・環境配慮型の電力供給システムの構築を、ベトナム政府およびベトナム電力公社へ提案するもので、検討期間は2010年10月から2011年2月までを予定しているとのことである。

昨年2009年6月には、我が国が開発した超超高圧UHV・1100KVが、電力機器関連の国際標準化団体であるIEC(国際電気標準会議)規格として世界標準電圧に選ばれ、認定されたが、ここに日本の優れたUHV送電システム技術を世界に売り込む基礎が築かれた訳で、その効果がさっそく現実のものになったと言えるのではないだろうか。

先般、2007年には東京電力は中国国家電網公司との間で2回線1100kV送電線の設計に関する技術コンサルティング契約を締結し国際的協力をした実績もあり、今後、日本が獲得したUHV・1100KV世界標準電圧の利点を世界に更にPRし、日本の開発した優れたUHV技術を世界に広めていくことで、この高効率・環境配慮型の電力供給システムが多くの国で採用されることを期待したい。

No.35 世界最長の送電線が中国で運転開始The longest power transmission line was built in China in the world and started use on July 8, 2010.
This power transmission line is the voltage of UHVDC+/-800kV, and the length is 1,907km.

当トピックスの既報、
No.28:世界記録を目指す直流送電・巨大プロジェクト(2009.10.07)
No.33:世界初の直流UHV+/-800kV送電線運転開始(2010.02.05)
で解説したように、中国は交流UHV送電線を商用運転させている世界で唯一の国であるとともに直流UHV+/-800kV送電線を既に運転開始しさせており、直流のUHV送電線を商用運転させている世界で唯一の国でもある。

すなわち、中国では南方電網公司が建設した世界初の直流UHV送電線である+/-800kV雲南-広東線が昨年12月に運転開始しているが、国家電網公司のホームページによると、ほぼ同時に同公司が建設を進めていた同一電圧の直流UHV+/-800kV向家堤(Xiangjiaba)-上海(Shanghai)線が2010年7月8日に運転開始したとのことである。
この向家堤-上海線は、こう長が1,916.5kmで、世界最長の送電線となった。
なお、送電電力は6,400MW(640万KW)で、直流送電線としては世界最大の送電能力を有する送電線であろう。

今までの世界最長送電線記録は、アフリカ・コンゴ民主共和国の、インガ・シャバ(Inga-shaba)線である。
インガ・シャバ線は、コンゴ川の河口に近いインガダム水力発電所(滝利用の発電所では世界最大、最終的には3,900万KWを計画)の出力を、建設当時のシャバ(Shaba)州で現在のカタンガ(Katanga)州の有名な銅山都市コルヴェジ(Kolwezi)に送電するために、アメリカの援助により、建設されたもので、直流+/-500KV、こう長約1,700Kmであり、今から28年前の1982年に建設されたものである。

当トピックスNo28及びNo33で既に掲載した設備概要を再掲すると以下のようである。

送電線設備の詳細は不明だが、鉄塔図は国家電網公司のWebページに掲載されており、図のごとくである。
具体的な寸法までは分からないが、電線水平間隔は約20m、鉄塔高さは40m弱であろう。
なお、懸垂箇所は直吊りも適用しているが、 ガイタワー(支線付鉄柱)は使用していないようだ。
鉄塔は総基数3,939基(平均径間484m)総重量24万ton強(1基当たり約61ton)である。
ルート経過地は、高標高の山岳地帯を通り、最高地点は2,300mに達し、重着氷地域(着氷厚さ30mm)を経過せざるを得なかったとのことである。
また、ルートは煤塵汚染地区の経過もありその地区ではがいし汚損量を想定塩分付着量換算で0.1mg/?を採用している。一方一般箇所では0.05mg/?を採用して、がいし一連個数は、耐霧がいしを使用し直吊り箇所で65個以上、V吊り箇所で56個以上を適用している。
電線は、ACSR720/50m㎡ 6導体方式を適用している。

No.34 Smart Grid(その8)<次世代送配電系統最適制御技術実証事業が発足>"The electric power companies, makers and universities" related to Smart Grid participated in one business.
It is called "the Smart Grid system optimal control technology proof business".
The business started on June 14.

Smart Gridすなわち次世代送配電網については、経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム協議会」が、その実証試験に参加する自治体を公募し4地域(神奈川県横浜市、愛知県豊田市、京都府けいはんな学研都市、福岡県北九州市)を選定して今年度から実証試験を開始することとしている。
また、沖縄ではSmart Gridの離島モデルを構築するための実証試験をやはり今年度に開始することとしており、同じ離島で気候条件が似ているアメリカ・ハワイ州との間で経済産業省はクリーンエネルギー協力に関する覚え書きを結び(6月17日調印)実証試験に向けた検討を本格化するとのことである。
さらに、アメリカ・ニューメキシコ州で実施されるSmart Grid実証事業について、州内5箇所で行うプロジェクトの内、ロスアラモス郡およびアルバカーキー市の2箇所で行う実証試験では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実証事業の総括を行うこととしているが、東芝、日立製作所など19社を6月16日に事業委託先として決定したとのことである。

このように、自然条件、社会条件が異なる各所で、最適なSmart GridおよびSmart communityは如何にあるべきか、電力設備、需要家設備、運用ソフト、運用組織などについての実証試験が鋭意進められている。
以上のような実証検討及び活動では、需要家サイドのスマートメータ、デマンドレスポンス問題、小容量分散電源の設備(太陽光、風力発電)と運用問題等に検討の比重が大きく置かれているように思われる。

しかし、Smart Gridで最も重要なのは既設電力系統サイドの「送配電系統の制御技術」であろうと思われ、その問題を我が国ではどこがイニシアチブを取って実証検討を行うのかと気になっていた。
このことについては6月14日、電力各社、メーカー、大学などの28法人等が参加して「次世代送配電系統(Smart Grid)最適制御技術実証事業」の発足式が開かれたとのことで、今後の活躍と成果が期待される。

本事業では、2020年の再生可能エネルギーの大量導入と系統安定化を両立させるため、

  • 系統サイドでは、配電系統の電圧変動制御技術開発、次世代変換器技術を応用した低損失・低コスト機器開発
  • 需要家サイドでは、系統状況に対応した需要家内機器の制御技術開発
  • 系統全体では、需給計画および系統制御、ならびに通信インフラの検討

等を3年間行い、高信頼度・高品質の電力供給システムの開発・構築を目指すとのことであり、この技術で世界標準を獲得して海外展開も目指したいとのことである。
本事業のプロジェクトリーダーは、東大大学院横山明彦教授が務め、事務局は東京電力が担当する。
本事業に必要な費用は経済産業省が半額を補助するとのことで、補助額は2012年度までの3年間で3億5千万円とのことである。

なお、経済産業省が事務局となりSmart GridおよびSmart communityに関連する企業が集まり、民間主導で議論してきた「スマートコミュニティ関連システムフォーラム」が6月15日に最終報告書をまとめたが、その成果と今後の対応について62ページにわたり詳細にインターネットで公開されている。
本サイトを閲覧されている皆様には、ぜひご一読されることをお勧めする。
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g100615a01j.pdf(その1)
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g100615a02j.pdf(その2)

No.33 世界初の直流UHV+/-800kV送電線運転開始The world’s first ±800kV DC transmission project?Yunnan-Guangdong UHV DC transmission project started single pole operation on Dec.28th.

直流の世界最高電圧は、1985年以来ブラジルの送電線で採用されている+/-600kVであるが、この程中国で世界初のUHV +/-800kVが運転開始された。
既にNo.28(2009.10.07)「世界記録を目指す直流送電・巨大プロジェクト」で解説したように、中国では「西電東送」プロジェクトの一つとして国家電網公司が目下建設を進めているXiangjiaba(向家堤)-Shanghai(上海)線が世界初のUHVDC(直流) +/-800kV送電線として今年2010年に運転開始するものと思っていたが、ほぼ同時に南方電網公司が建設を進めていた同一設計電圧のUHVDC +/-800kV Yunnan(雲南)-Guangdong(広東)線が一足早く昨年末に運転開始し、世界記録を達成した。(図参照)
すなわち、南方電網公司が建設を進めていたUHVDC +/-800kV Yunnan(雲南)-Guangdong(広東)線については、2009年12月24日に運転許可を得て12月28日に単極運転を開始した。

起点は雲南省楚雄の禄豊県で、終点が広東省広州の増城市であり、そのこう長は1,373kmである。
送電容量は当面単極運転では260万kWで、今後2010年6月には双極運転を目指しておりその時は500万kWになる予定である。
送電線路の鉄塔は、既にNo.28(2009.10.07)「世界記録を目指す直流送電・巨大プロジェクト」で解説した国家電網公司の鉄塔と概略類似の構造と推測される。
すなわち、+極線と-極線は鉄塔の左右に水平に配置され、その水平間隔は約20mであろう。
また、懸垂箇所のがいし装置はV吊りで、電線の導体方式は6導体ではないかと思われる。

本送電線の電源は、正確な情報はないが、社団法人海外電力調査会発行の「中国の電力産業」掲載情報から推測すると、送電線起点である禄豊県西方約200kmの雲南省西部を南北に流れるランツァンチアン(Lancang Jiang、瀾滄江、メコン川上流の大河)に建設された水湾水力発電所(420万kW)および近傍の他の発電所出力を集めたものと思われる。

ところで、南方電網公司では西部方面の電源地帯から広東省の需要地に対して多くの「西電東送」プロジェクトを進めてきたが、この送電線の運転開始により、500kV以上の超高圧送電線は交流8回線、直流5回線の計13回線となり、送電容量は2,300万kW以上となった。
中国は昨年1月以来交流UHV送電線を商用運転させている世界で唯一の国となったが、更に今回の直流UHVを加え交流と直流のUHVを共に商用運転させている世界で唯一の国となった。
当分この記録に迫る国は無いと思われる。

2010.02.14 補足

南方電網公司は、本送電線路について、2007年4月に着工し25ヶ月という短期間に1,373kmにわたる大工事を実施し、2009年5月にほぼ全線の工事を竣工させた。
しかし、広東地域の一部では用地交渉が難航し2009年5月下旬にやっと解決させたところもあったが、その箇所は約1ヶ月の短期間の突貫工程で工事を仕上げ、完成予定の2009年6月に間に合わせたとのことである。
南方電網公司は、2009年6月30日に試験的に設計電圧の半分の+/-400kV双極運転を開始させ、まず約15万kWの電力を送電開始した。
この+/-400kV双極運転を半年間行い、その間30数億kWh(平均約70万kW)を送電して、安定した運転実績を確認した上で冒頭に記載したように2009年12月28日に設計電圧である世界初の UHVDC800kV単極運転を開始したものである。

2010.03.04 追記

一方、国家電網公司が目下建設を進めているXiangjiaba(向家堤)-Shanghai(上海)線・UHVDC(直流) +/-800kV送電線についての追加情報を下記の通り掲載する。

国家電網公司のホームページ、
http://www.indaa.com.cn/zt/tgyzl/
によると、既報No.28(2009.10.07)「世界記録を目指す直流送電・巨大プロジェクト」で解説した内容に追加して下記のことが分かった。


  • 2009年12月26日、既に架線工事が完了した全区間に対して、800kV単極直流を荷電し正常に荷電することが確認された。
  • 本送電線路のルートは、上記ホームページに掲載されている通りで、四川宜賓市宜賓県に位置する起点の交直変換所から、終点となる上海奉賢の交直変換所迄の間で、こう長1,916.5kmである。
    (既報No.28(2009.10.07)ではこう長2,071kmと解説したが、実際には2,000kmを切って少し短くなり1,916.5kmとなった模様である)
    ただ、ホームページに掲載されているルート図では、終点の上海近くでヘアピンカーブを描くような不自然なルートになっているが、実際のルートは同ページ内のルート紹介記事に載っている経過地都市名を追っていくと分かるが、緩やかな曲線でほぼ直線的である。
  • 一般箇所の電線線種はACSR720/50m㎡×6導体方式であり、許容電流は4,000A、送電電力は6,400MWである。
    ルートは山岳地帯を多く経過するが、着氷雪設計は着氷厚さが重着氷地域は30mm、軽着氷地域20mm、一般地区10mmの3段階の設計を採っているようだ。
    重着氷地域の電線は、断面積は一般地区と同じだが強度の強いAACSR720/50m㎡を採用している。
    また、架空地線(帰線)には、アルミ覆鋼より線180m㎡(LBGJ-180-20AC)1条およびOPGW-180m㎡1条の計2条を採用している。ただし重着氷地域では、アルミ覆鋼より線240m㎡(LBGJ-240-20AC)1条およびOPGW-250m㎡1条を採用している。
    さらに、長江横断の超長径間箇所(径間長は3,000m以下で鉄塔高200m程度と思われる)では、電線は特強AACSR/EST-640/290(公称断面積925.14m㎡)4導体、架空地線(帰線)には、アルミ覆鋼より線340m㎡(JLB14-340)1条およびOPGW-350m㎡1条を使用している。
  • 工事は、2008年12月に本格的に開始され2009年11月にはほぼ竣工させたとのことで、この大工事を11ヶ月の短期間で施工したとのニュースには驚いた。
    工事工区は、一般工区26工区、長江を4回超長径間横断するがその特殊工区4工区を合わせ合計28工区で施工したようだ。
    鉄塔は総基数3,939基(平均径間484m)総重量24万ton強(1基当たり約61ton)で、1工区当たりの建設鉄塔基数は平均140基(工区総重量約8,500ton)となる。
    工事請負会社は、受け持ちこう長平均68km、140基の鉄塔建設と6導体2相の架線工事(恐らく各工区とも平均して約10延線区間の延緊線工事)を11ヶ月で施工したことになり誠に驚くべきスピードである。
    電線延線方式は、1相を構成する6条の電線を一括して1条のメッセンジャワイヤで引き、しかも左右相を同時に延線する方式で施工されたと思われる。
  • 今後は、系統的なデバッグなどを行い、上海万博までには本格稼働させると思われる。
  • 起点の金沙江下流域には本ルートの電源である向家ダム発電所を含め、合計して4つの大容量発電所を設け最終的には合計38.50GW(3,850万kW)を発電する計画で、これは三峡発電所の2倍の発電容量になるとのことで、今後上海方面には更に5~6ルートの直流送電線が必要とされるようだ。
    更に金沙江中流および上流では将来30GW以上の発電も計画されているとのことである。

No.32 Smart Grid(その7)<官民挙げて動き活発化>The government office and private enterprises started connected activity lively to establish "Smart Grid System" early from the latter half of last year.

Smart Grid(その6)で解説したように、次世代電力網「スマートグリッド:Smart Grid」については、経済産業省は昨年「次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会」、「次世代送配電ネットワーク研究会」などを設け戦略検討に入っているが、こうした検討を横断的にとりまとめ、統一的に円滑に推進するため新たに「次世代エネルギー・社会システム協議会」という省内横断的なプロジェクトチーム(日本を代表する大学のエネルギー工学、社会科学等を専門とする先生方7名のメンバー)を昨年11月に設置し万全の体制を敷いた。

一方、経済産業省が事務局となり民間主導の会議体「スマートコミュニティ関連システムフォーラム」を立ち上げるため昨年12月3日に第1回会合を開き、本年1月13日に本格活動を開始した。
日本企業は、有力な製品を持つにも拘わらず、横のつながりが希薄で製品群を組み合わせて社会システムを構築するのが苦手である。

そこでこのフォーラムでは、業界の垣根を超えて

  • エネルギー(東京電力、関西電力、東京ガス)
  • 自動車(トヨタ、日産など)
  • 住宅(積水ハウス、大和ハウス)
  • 家電(東芝、パナソニック、三洋電機、シャープなど)
  • 充電・蓄電池装置(エリーパワーなど)
  • 電気機器(NEC、日立、富士通など)
  • IT(日本IBM、グーグル)
  • 情報通信(NTT、KDDI)

など「スマートコミュニティ」に関連する幅広い分野の企業が一堂に会して議論を深めることとし、24社が参加している。

具体的には、スマートグリッドを実現した社会に不可欠な

  • 蓄電池
  • 電気自動車
  • 双方向の通信機能で需要家への送配電をきめ細かく調整可能な次世代型電力計「スマートメータ」

などのインフラについて、必要な要素を明確にし、相互に運用できる規格を検討するほか、その国際標準化についても戦略を立てることとし、6月までに提言をまとめ政府の支援策に行かしていく予定だ。

本フォーラムの提言後は、その提言を基に、スマートグリッド関連産業の世界展開を後押しするため、経済産業省は民間主体の新しい「共同企業体(コンソーシアム)」を立ち上げる予定とのことである。
スマートグリッドを実現するには、多くの幅広い産業が関わる必要があるが、各企業が単独で海外展開をするよりも共同企業体を構築した方が海外市場を開拓しやすいと考えられるので、その設立に向けて検討を進めているもので、新組織「共同企業体」は経済産業省の委託を受ける形でスマートグリッド関連技術の実証試験や技術開発を行うほか、海外展開に不可欠な国際標準化にも取り組む予定とのことである。

さて、冒頭に述べた「次世代エネルギー・社会システム協議会」は、1月19日に将来を見据えて中間報告をまとめた。
その基本は、次世代社会システムの核となるスマートグリッドの定義が各国で異なることから、日本としての独自の考え方を打ち出したことである。

すなわち、

  • 天候で発電量が左右される再生可能エネルギーの不安定さをカバーする強力な送配電ネットワークを構築する
  • 家庭やオフィスで融通し合ったり、余剰分を蓄電池で貯めるなどして、地域内で消費の効率化を図る電力の地産地消を行う

の2本柱を掲げた。

そして、中間報告の骨子として次の6項目が挙げられた。

  • 総務省や国土交通省など関係する5省の連絡会議を立ち上げ、電力をはじめ通信、都市開発などの多面的議論を進める。
  • 国内実証試験を来年度から実施する。具体的にはスマートグリッドに加え、小水力などの未利用エネルギーの有効活用、EVの利用を前提とした社会システムを地域住民や企業、商業施設を巻き込み実証実験に取り組む。1月末から参加自治体を公募し協議会で2,3箇所に絞り、実施期間は3~5年の予定
  • 4月までに今後20年間程度の長期ロードマップを策定し、政策の方向付けを行う。
  • 日本型スマートグリッドを海外に売り込むため、先に述べた「フォーラム」を母体として更に参加企業の輪を拡げて官民挙げた協議会「スマートグリッド推進協議会」を2月にも設立する。
  • 国際展開へ向けた複数地域での海外実証実験を行うこととし、米ニューメキシコ州、ハワイ、インド、中国などを選定先とする。
  • 国内規格の国際標準化を推進する。

なお、我が国では当面、この新組織「共同企業体」あるいは「スマートグリッド推進協議会」が中心となりスマートグリッド関連技術の開発および海外展開が進められていくと思われる。
さらに、経済産業省はスマートグリッド分野の国際標準化などで東アジア諸国との協力関係を深めるとのことである。すなわち東アジア各国でのスマートグリッドの形は風土の違いなどから欧米とは異なる可能性があるが、その状況を調査して東アジア各国間で問題意識を共有し、東アジア諸国との結束を固め、国際標準化で先行している欧米勢力に対抗する素地を整えたいとのことである。

ところで、沖縄電力が宮古島で今秋から行うスマートグリッドシステムの実証試験システムをこの程東芝が一括受注したとのことである。これは4MWの太陽光発電システムなどを新設し既存の電力系統に連結しスマートグリッドを実現するもので国内最大規模の実証試験で、いよいよ我が国初の大規模実験が開始されることとなった。

上述の通り今年はスマートグリッドに関する戦略検討が官民挙げて活発になり、また実証試験等も各所で開始されると思われ、スマートグリッド具体化スタート年になるものと思われる。

2010.04.10 追記

スマートコミュニティ・アライアンス設立

前述したように、「次世代エネルギー・社会システム協議会」は、1月19日に将来を見据えて中間報告をまとめたが、その骨子の一つとして掲げられた官民連携の「スマートグリッド推進協議会」は「スマートコミュニティ・アライアンス(JSCA)」との名称で4月6日に設立総会を開催した。
この「スマートコミュニティ・アライアンス」とは、スマートグリッドを核とする環境配慮型の都市(Smart Community)形成を目指す同盟(Alliance)と言うことで、太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入拡大で大きな需要が見込まれる海外の環境配慮型インフラの受注を目指すものであり、経産省はこのアライアンスをスマートグリッド関連産業の「営業部門」として位置付けている。
このアライアンスは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が事務局を務め、東電、東京ガス、東芝、トヨタ自動車、伊藤忠商事、日揮、パナソニック、日立製作所、三菱電機の9社が幹事となり、事務局、幹事を含め287の企業・団体が参加している。
会長には東芝の佐々木則夫社長が選ばれた。
政府は新成長戦略の中で新興国のインフラ受注へ向けた官民連携を重点施策に据えており、このアライアンスにて国際市場での受注獲得や技術の国際標準化に向けた戦略を作ると共に技術開発のロードマップ策定などについて議論を進めていく方針である。
参加企業の関係者は、さっそく4月13日から4日間の日程で米国視察を行い、IBMおよびGEなどの約120社が参加している米民間団体「グリッドワイズ・アライアンス」と受注獲得と国際標準化戦略での日米連携を強めていくとのことである。

スマートグリッド実証試験地決定

また、「次世代エネルギー・社会システム協議会」が、1月19日に将来を見据えて中間報告をまとめた骨子の一つとして掲げた実証試験に参加する自治体を公募する件については、経産省は4月8日に公募に応じた20箇所の中から4地域を選定したと発表した。
その4地域は、神奈川県横浜市、愛知県豊田市、京都府けいはんな学研都市、福岡県北九州市で、実証試験の総事業費は1千億円とのことである。
この中で最も大規模なのが横浜市で、同市ではみなとみらい地区などの4,000世帯が参加し、また民間企業(アクセンチュア、東電、東ガス、東芝、日産自動車、パナソニック、明電舎)が参加して、各需要家にスマートメータを設置すると共に27,000kW程度の太陽光発電を導入、2,000台の電気自動車と高速充電器などを配置してスマートコミュニティを構築するとのことで、今年から開始し期間は5年間を予定している。

次世代エネルギー社会システムロードマップ案公表

第8回の「次世代エネルギー・社会システム協議会」が4月8日に開催されたが、そこで次世代エネルギー・社会システムの2030年に向けたロードマップ案が示された。
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100408a04j.pdf

このロードマップによると、2030年までにはスマートグリッドの構築を本格化させ各家庭では太陽光発電と電気自動車を活用しエネルギー消費の自給自足がほぼ達成されると見込んでいる。
また、スマートグリッドの全国的整備により、雇用創出60万人と市場規模5.4兆円が見込まれるとのことである。 

No.31 書籍「忘れられたルーツ」が発刊されたBook "Forgotten Roots" (original work Jack Casazza) was published in October, 2009 by "the meeting for the study of the history of electricity development".

我々の日常生活に欠かせないライフラインの一つである「電力システム」については、米国で1882年にエジソンにより企業化され、現在では必要不可欠のシステムとして全世界で運用されており約120年の歴史がある。
米国では、その草創期から米国電力産業の黄金時代と言われた1945~1965年頃までにそれを構築した技術者達は「現在と未来」を的確に見据えて長期的視野に立って設備を計画・建設し賢明に運用した。

ところが現在はどうであろうか、米国に於ける「電力システム」の現状はその基本であるルーツを忘れ専門技術者の考えを無視して目先の短期的利益を追求するだけの経済学者の浅はかな考えに基づき運用されており、極めて憂慮すべき状況になっていると言われている。
このことについて、米国のみならず世界の電力界で60年余りにおよぶ長い間活躍を続けてきた電力技術分野の重鎮であるJack Casazza氏が2007年に 「Forgotton Roots(忘れられたルーツ)」のタイトルで新著を発行されている。
この著書の中では、「電力自由化は、電気事業に適用できることが証明されていない幼稚な経済理論に基づく大失敗だった」、「電力政策に市場原理主義は無効である」、「電力政策に民主主義の精神を取り戻し、技術者は社会的責任を自覚せよ。すなわち、常に目標とすべきは、消費者の長期的利益を達成することだ。」など誠に鋭い指摘をされている。
当ホームページ開設者としても全く同感である。

この度、この著書のエッセンス翻訳と、それに加えて我が国の「電力システム」の歴史、現況、および将来の展望などの内容を一冊にまとめた「忘れられたルーツ(電力産業120年の浮沈とこれからの100年)」が社団法人 エネルギー・情報工学研究会議(EIT)-電力発展史研究会(委員長関根泰次先生)により2009年10月に発刊された。
本書は電力関連技術者が持つべき基本的理念「職業倫理および社会的責任」などについて分かりやすく述べたもので、送電線に関心がある当ホームページ訪問者の方々、なかでも特に電力関連技術者の方々にはぜひ読んでいただきたいと推奨するものである。

本書の発行所は社団法人日本電気協会(〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-7-1 電話03-3216-0555出版部)で、価格は消費税込み1,785円である。
なお、本書はISBNコード検索システムに登録されていないため一般書店では注文ができないので、誠に面倒だが直接上記・日本電気協会に電話して購入していただきたい。

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